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ホタル情報館 (ホタル情報交換 30:22-23,2008年) 2008年7月13日掲載

◇ホタルのルシフェラーゼの進化について(紹介)
 情報交換誌29号のホタル関連文献目録追加で紹介した、大場裕一氏の「発光昆虫はどのような方法で進化したか」には発光甲虫のルシフェラーゼがどのように進化したのかが解説されています。会員の皆さんにも関心があると思いますので前記報文の内容を簡単に紹介したいと思います。
 発光が報告されている甲虫のうち、コメツキムシ上科のコメツキムシ科(Prophorinae亜科の一部が発光する)、ホタル上科のホタル科、オオメボタル科(イリオモテボタル科)、フェンゴデス科の系統については多くの研究例がありますが、未だに合意にいたっていません。しかし、コメツキムシ科と他のホタル上科の3科とは系統的に大きく離れているとされています。したがってコメツキムシ科の発光はホタル上科とは別に独立して進化した可能性が高いと考えられます。また、これらの祖先の甲虫は非発光性であったとも考えられます。
 ではルシフェラーゼ(発光を司る酵素)はどこからきたのでしょうか。そこで甲虫目のルシフェラーゼとそれに類似した酵素の分子系統解析を行ったところ、ホタルのルシフェラーゼもフェンゴデスのルシフェラーゼもヒカリコメツキのルシフェラーゼもクラスターの一ヶ所に集まっていて、遺伝子の起源が共通であることを示しました。周辺には「クマル酸CoAリガーゼ」という植物の木質部を作るのに関わる酵素や「脂肪酸CoA合成酵素」という、脂肪を分解するのに必要な全ての生物にとって重要な酵素などが並んでいます。つまり、「発光甲虫のルシフェラーゼは、ウミホタルのルシフェラーゼよりも発光とは関係のない酵素に似ている」ということになり、ルシフェラーゼではない共通の別の酵素から進化したらしいということがいえます。そこで生化学的な実験を行った結果、4科の発光する甲虫のルシフェラーゼは、もともと脂肪酸CoA合成酵素という同じ遺伝子の突然変異により進化したと考えられることがわかりました。結局のところ、「発光酵素ルシフェラーゼの進化をもたらしたのは、ありふれた「脂肪を分解する酵素」に起こった控えめな突然変異であった。それは、異なった系統で独立に起こりえないような途方もない革命的事件では決してなかった。(大場,2006)」のです。つまり、発光性甲虫のルシフェラーゼの誕生には、とんでもなく大きな変更をもたらす突然変異が起きたわけではなく、ありふれた酵素を支配する遺伝子がほんの少し変化しただけであるということです。もちろんルシフェラーゼの進化だけでホタルが発光するようになったわけではありませんが、こうした小さな進化の積み重ねが私達を惹きつけてやまない幽玄な光を生み出すことになっていったのでしょう。
(全国ホタル研究会 編集委員会)

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